SNS運用代行の契約書には、業務の範囲、報酬と支払日、成果物とアカウントの権利、秘密保持と個人情報、再委託と生成AIの扱い、解除の手順を条項として書いておきます。この記事では、受託する側と発注する側の両方が使えるように、条項の記載例を条文の形で示し、あわせて確認する点を表にまとめました。
タイトルにある「ひな形」は、本文の中に条文として載せています。金額や期間などは【 】で空欄にしてあり、案件ごとに埋めて使う形です。条文は、仮の例として示すもので、実在の取引や特定の会社の契約書ではありません。
法令に関わる部分は、公正取引委員会、厚生労働省、文化庁、個人情報保護委員会、消費者庁、国税庁などの公式ページへ、その記述が当てはまる条件とあわせてリンクしています。契約書は取引の内容ごとに適した形が変わるため、金額の大きい案件や判断に迷う点は、弁護士や行政書士などの専門家に確認してください。
この記事でわかること
- SNS運用代行の契約書に書く内容と、請負と準委任の違い
- 契約書に入れる10の項目と、その一覧表
- 条文の形で示した契約書ひな形(仮の例)
- 受託側と発注側が、条項ごとに確認する点の表
- 報酬・支払期日とフリーランス法、取適法の関係
- 著作権、アカウント、個人情報、ステマ規制、生成AIの条項の考え方
- 電子契約と印紙税の確認先、契約書を提示するときの伝え方
SNS運用代行の契約書とは?書く範囲とひな形の使い方
SNS運用代行の契約書とは、運用を任せる側(発注者)と引き受ける側(受託者)が、業務の範囲、報酬、権利、責任、終了の手順を文書に定めたもので、口頭の約束だけでは残らない合意内容を、後から双方が確認できる形にしたものです。
SNS運用は、投稿の制作、コメントへの返信、数字の報告など、作業が日々細かく発生する業務です。そのため、始めるときに「どこまでが業務か」を決めておかないと、依頼の積み重ねで範囲が広がり、報酬との釣り合いが取れなくなります。契約書は、この線引きを最初に文章にするための道具です。
ひな形の使い方は三段階です。まず、本記事の条文をそのまま写すのではなく、自分の案件の対象アカウント、投稿本数、報酬の締め日、確認の手順に合わせて空欄を埋めます。次に、条項ごとの確認表で、自分の立場から見て不利になっていないかを読みます。最後に、金額が大きい契約、独占的な業務を含む契約、個人情報を多く扱う契約は、専門家の確認を受けます。
見積書の段階から契約書へつなげたい場合は、SNS運用代行の見積書の書き方の記事で、記載項目と前提条件の整理を扱っています。
SNS運用代行に契約書が必要な理由とトラブル防止効果

契約書が必要な理由は、報酬、権利、責任の所在を、後から双方が同じ文面で確認できるからです。口約束は記憶に頼るため、認識がずれたときに、どちらの言い分が合っていたかを示す材料がありません。
SNS運用代行で起きやすい行き違いは、おおむね次の四つに分けられます。
- 報酬の行き違い:締め日、支払日、成果が出なかった場合の扱いが決まっておらず、請求のたびに協議になる
- 業務範囲の行き違い:投稿の制作だけの約束だったのに、返信対応や広告の設定まで頼まれる
- 権利の行き違い:投稿の著作権や、契約が終わったあとのアカウントの管理を誰が持つのかが決まっていない
- 情報の行き違い:運用中に知った売上や顧客の情報の扱い、第三者への再委託の可否が決まっていない
それぞれの対策になる条項は、後半の条文とその解説で順に扱います。
法令の面でも、書面を整える意味があります。公正取引委員会のフリーランス法特設ページによると、フリーランス法でいう「フリーランス」は、業務委託の相手方である事業者で、従業員を使用しないものです。従業員を使用している人や、消費者を相手に取引している人は、一般にフリーランスと呼ばれていても該当しないと説明されています。該当する場合、発注側は、業務委託をしたときに、取引条件を書面または電磁的方法(メール、SNSのメッセージなど)で明示する必要があります。明示する事項には、業務の内容、報酬の額、支払期日、発注事業者とフリーランスの名称、委託した日などが含まれます。発注側に求められる内容は、発注側が従業員を使用しているか、委託の期間がどれくらいかによって変わります(公正取引委員会:フリーランス法特設ページ、法律の本文はe-Gov法令検索のフリーランス法)。
つまり、取引条件を文書で示してほしいと伝えることは、相手に失礼な行為ではなく、法令の趣旨にも沿った依頼です。自分が受託側で、相手が個人や小さな事業者の場合は、契約書の形でなくても、条件をメールで整理して返信をもらう方法もあります。
請負と準委任の違い|SNS運用代行はどちらで結ぶか
請負と準委任の違いとは、請負が「仕事の完成」を約束する契約で、準委任が「事務の処理そのもの」を任せる契約であるという、約束する中身の違いのことで、契約書では報酬の根拠と責任の重さに関わります。
民法では、請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対して報酬を支払うことを約する契約として定められています(民法第632条)。準委任は、法律行為でない事務の委託について、委任の規定を準用するものです(民法第656条)。条文はe-Gov法令検索の民法で確認できます。
| 見る点 | 請負に近い約束 | 準委任に近い約束 |
|---|---|---|
| 約束する中身 | 決めた成果物の完成と納品 | 運用という業務を、決めた期間と範囲で行うこと |
| SNS運用での例 | 投稿画像を決めた枚数だけ納品する、リール動画を1本仕上げる | 月ごとに企画、投稿、返信対応、報告を続ける |
| 報酬が結びつくもの | 成果物の完成 | 業務を行った期間や作業の範囲 |
| 契約書で決めること | 納品物の仕様、検収の方法、修正の回数 | 業務の範囲、報告の頻度、連絡の手段 |
| フォロワー数などの結果 | 約束に含めない(成果物の完成とは別) | 約束に含めない(業務の遂行とは別) |
月ごとに運用を続ける形は、準委任に近い性質を持つことが多いと考えられます。一方で、投稿画像の納品のように、成果物の完成が報酬と結びつく部分は、請負に近くなります。実際の性質は、契約書のタイトルではなく、定めた中身で判断されます。そのため、ひな形では、運用の業務は準委任として、成果物の納品が必要な部分は納品物と検収の条件を別に書く形にしています。
フォロワー数や閲覧数は、プラットフォームの仕様や外部の状況にも左右されるため、契約書で結果を約束する書き方は避けます。成果に連動した報酬を入れたい場合は、「目標を達成したときに加算する」という形にし、未達のときに報酬を返す義務が生じないようにしておくと、受託側の負担を抑えられます。
SNS運用代行 契約書に必ず入れるべき必須項目10

契約書に入れる10の項目を、次の表にまとめます。図解とは項目の区切り方が異なり、納期や修正の回数は、案件に応じて業務内容や成果物の条項に書き足します。それぞれの記載例は、このあとのひな形で条文の形に直しています。
| No | 条項 | 書く内容 | 書かないと起きやすいこと |
|---|---|---|---|
| 1 | 業務内容 | 対象アカウント、投稿の種類と本数、対応する曜日と時間帯、報告の内容 | 範囲外の依頼が無償で増える |
| 2 | 契約期間と更新 | 開始日、終了日、更新の方法と申出の期限 | いつまで続くのか、双方の認識がずれる |
| 3 | 報酬と支払条件 | 金額、税の扱い、締め日、支払日、振込手数料の負担 | 請求と入金の時期が決まらない |
| 4 | 成果物の権利 | 著作権の帰属と移転の時期、著作者人格権の扱い、素材の権利 | 投稿の再利用や実績掲載で揉める |
| 5 | アカウントの管理 | 所有者、ログイン権限の付与と返却の方法 | 契約終了後にアカウントを動かせない |
| 6 | 秘密保持と個人情報 | 対象の情報、例外、存続期間、個人情報の取扱い | 運用中に知った情報の扱いが不明になる |
| 7 | 再委託と生成AIの利用 | 再委託の条件、ツールに入力してよい情報の範囲 | 知らない第三者や外部ツールに情報が渡る |
| 8 | 投稿内容の確認と広告表示 | 公開前の確認の手順、広告であることの表示 | 誤った表現や広告表示の漏れの責任が曖昧になる |
| 9 | 解除と損害賠償 | 予告の期間、重大な違反の扱い、賠償の範囲と上限 | やめたいときの手順と精算が決まらない |
| 10 | 反社会的勢力の排除と協議・管轄 | 表明と確約、定めのない事項の協議、裁判所の管轄 | 想定外の事態の進め方が決まらない |
契約書ひな形(仮の例)|前文と第1条〜第7条
契約書のひな形とは、業務委託契約に共通して必要な条項を、金額や日付などの空欄を残したまま条文の形に整えた見本で、案件ごとに空欄を埋め、不要な条を外して使うための出発点です。
以下は、Instagramの運用を月額の固定報酬で任せる場合の仮の例です。甲を発注者、乙を受託者とし、【 】は案件ごとに埋めます。
業務委託契約書(SNS運用代行)
【発注者の名称】(以下「甲」という)と【受託者の名称】(以下「乙」という)は、SNS運用代行業務について、次のとおり契約を締結する。
第1条(業務内容)
1 乙は甲に対し、次の業務(以下「本業務」という)を行う。
(1) 対象アカウント:Instagram【アカウント名】
(2) 投稿の企画・制作:フィード投稿 月【 】本、リール 月【 】本
(3) 投稿の予約・公開
(4) コメント・メッセージへの一次対応:【曜日・時間帯】
(5) 月次レポートの提出:毎月【 】日まで
2 前項に含まれない業務(広告の出稿設定、撮影の同行、新規アカウントの開設など)は、甲乙が協議し、書面または電子メールで合意した場合に限り行い、その報酬は別途定める。
第2条(契約の性質)
本業務は準委任とし、乙は善良な管理者の注意をもって本業務を行う。フォロワー数、閲覧数、売上などの数値は、乙が月次レポートで報告する対象であり、その達成は乙の義務に含まれない。
第3条(契約期間)
1 契約期間は、【開始日】から【終了日】までとする。
2 期間満了の【 】日前までに、甲乙いずれからも更新しない旨の申出がないときは、同一の条件で【 】か月間更新され、以後も同様とする。
第4条(報酬および支払条件)
1 甲は乙に対し、本業務の報酬として、月額【 】円(消費税【別/込】)を支払う。
2 乙は毎月末日に締めて請求書を発行し、甲は、当該月に行われた本業務の報酬を、翌月末日に、乙の指定する口座へ振り込む。
3 振込手数料は甲の負担とする。
第5条(投稿の確認)
1 乙は、投稿を公開する前に、甲が定める方法(【電子メール/チャット】)で内容を甲に示し、甲の確認を得る。
2 甲は、【 】営業日以内に確認の結果を回答する。期限内に回答がないときは、乙は公開を保留し、甲に再度確認を求める。
第6条(成果物の権利)
1 本業務で乙が制作した投稿の文章、画像、動画その他の成果物(以下「成果物」という)の著作権(著作権法第27条および第28条に規定する権利を含む)は、甲が第4条の報酬の全額を支払った時に、乙から甲へ移転する。
2 乙は、成果物について、著作者人格権を行使しない。
3 乙が従前から有していた制作の型、素材その他の著作物の権利は乙に留保され、乙は甲に対し、成果物の利用に必要な範囲で利用を許諾する。
4 乙は、甲の事前の承諾(書面または電子メール)を得た場合に限り、成果物を、甲の名称を伏せた形で、乙の制作実績として紹介できる。
第7条(アカウントの管理)
1 対象アカウントの所有者は甲とする。
2 甲は、乙に対し、本業務に必要な範囲の権限を、プラットフォームが定める方法で付与する。パスワードを共有する場合は、その管理方法を甲乙で別途定める。
3 乙は、契約が終了したときは、付与された権限を速やかに返還し、保有するログイン情報を消去する。
契約書ひな形(仮の例)|第8条〜第15条と署名欄
ひな形の後半とは、秘密保持、個人情報、再委託、広告表示、解除、賠償、反社会的勢力の排除、管轄といった、業務の中身そのものではなくトラブルや終了のときに働く条項のことです。
第8条(秘密保持)
1 乙は、本業務を通じて知った甲の営業上、技術上の情報(以下「秘密情報」という)を、本契約の期間中および終了後【 】年間、甲の承諾なく第三者に開示、漏えいしてはならない。
2 次の情報は、秘密情報に含まれない。(1) 公知の情報 (2) 乙が契約の前から保有していた情報 (3) 乙が秘密保持義務を負わずに第三者から正当に取得した情報
第9条(個人情報)
乙は、本業務で取り扱う個人情報(メッセージの送信者の情報、問い合わせ内容、顧客の情報など)を、個人情報の保護に関する法律その他の法令に従い、本業務の目的の範囲でのみ取り扱い、契約が終了したときは、甲の指示に従い返却または消去する。
第10条(再委託および生成AIの利用)
1 乙は、甲の事前の承諾(書面または電子メール)を得ずに、本業務の全部または一部を第三者に再委託してはならない。
2 乙は、文章や画像の作成のために生成AIその他の外部ツールを利用する場合、甲の秘密情報および個人情報を入力しない。利用するツールの範囲は【 】とする。
第11条(広告表示および投稿内容)
1 投稿が、甲の商品またはサービスの広告に当たる場合、甲乙は、広告であることが閲覧者に分かる表示を行う。
2 乙は、商品やサービスの内容、価格、効果に関する表現を、甲が提供した資料の範囲で作成し、公開の可否は第5条の確認を経て甲が最終的に判断する。
第12条(契約の解除)
1 甲および乙は、【 】日前までに相手方へ書面または電子メールで通知することにより、本契約を解約できる。
2 相手方が本契約に違反し、相当の期間を定めて是正を求めても是正されないときは、直ちに本契約を解除できる。
3 契約が終了したときは、甲乙は、終了までに行われた本業務の報酬を精算する。
第13条(損害賠償)
本契約に関して一方が相手方に損害を与えたときの賠償は、故意または重大な過失がある場合を除き、直近【 】か月分の報酬額を上限とする。
第14条(反社会的勢力の排除)
甲および乙は、自らが反社会的勢力に該当せず、将来にわたっても該当しないことを表明し、確約する。
第15条(協議および管轄)
1 本契約に定めのない事項および本契約の解釈に疑義が生じたときは、甲乙が誠実に協議して定める。
2 本契約に関する紛争は、【 】地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
本契約の成立を証するため、本書を2通作成し、甲乙が記名押印のうえ、各1通を保有する。電子契約で締結する場合は、電子署名を付した電磁的記録を原本とする。
【契約日】
甲:【住所・名称・代表者名】 印
乙:【住所・氏名または名称】 印
条項ごとの確認表|受託側と発注側で見る点
条項ごとの確認表とは、同じ条文でも立場によって注意する点が異なることを整理し、契約書を提示される側と提示する側のどちらでも、署名の前に読み返す観点を一覧にしたものです。
契約書は、受託側が作るのか、発注側が作るのかで、書き方の癖が変わります。受託側が作ると報酬の保護が厚くなり、発注側が作ると成果物の権利や責任が重くなる傾向があります。次の表は、どちらの立場でも読み返せるように、条項ごとの確認点を並べたものです。
| 条項 | 受託側が確認すること | 発注側が確認すること |
|---|---|---|
| 第1条 業務内容 | 範囲外の依頼を別料金にする手順があるか | 期待している作業が、漏れなく範囲に入っているか |
| 第2条 契約の性質 | 結果を約束する書き方になっていないか | 報告の頻度と内容で、進み具合を確認できるか |
| 第3条 契約期間 | 更新の申出の期限を把握しているか | 更新を望まないときの期限を把握しているか |
| 第4条 報酬 | 支払日が、サービスを提供した日から見て長すぎないか | 請求書の受け取りと支払いの手順が社内で回るか |
| 第5条 投稿の確認 | 確認が遅れたときの扱いが決まっているか | 公開前に自社の確認を入れられる体制か |
| 第6条 成果物の権利 | 権利の移転が、報酬の支払いの後になっているか | 投稿の再利用や二次利用の範囲が足りているか |
| 第7条 アカウント | 付与された権限の範囲が業務に合っているか | 契約が終わったときに、自社が権限を取り戻せるか |
| 第8〜9条 秘密保持・個人情報 | 秘密情報の範囲が広すぎないか | メッセージや顧客の情報を、必要な範囲でだけ渡しているか |
| 第10条 再委託・生成AI | 外注やツールの利用に、承諾が必要な範囲はどこか | 外部ツールに入力されてよい情報の線が、社内の規程と合うか |
| 第12〜13条 解除・賠償 | 賠償に上限があるか | 重大な違反があったときに、速やかに解除できるか |
再委託の条件やアカウント権限の返却は、条文が短くても運用で詰まりやすい点です。再委託の許諾の取り方はSNS運用代行の再委託の進め方、アカウント権限の渡し方と解約時の対応はアカウント権限の渡し方の記事で、手順を整理しています。
報酬と支払期日の書き方|フリーランス法・取適法との関係
報酬条項とは、金額、税の扱い、締め日、支払日、振込手数料の負担を定める条文で、フリーランス法や取適法が当てはまる取引では、支払期日の定め方が法令の確認事項にもなります。
報酬の条項は、金額だけでなく、締め日と支払日をセットで書きます。月ごとに業務を行う契約なら、「毎月末日に締め、翌月末日に支払う」のように、日付で読み取れる形にします。税については、金額が税別なのか税込なのかを書き、源泉徴収や適格請求書(インボイス)が関わる場合は、請求書に何を載せるかも取引の前に確認しておくと、請求の段階で迷いません。請求書の項目はSNS運用代行の請求書の書き方の記事で整理しています。
支払期日については、公正取引委員会のフリーランス法特設ページが、報酬の支払期日を、発注側が給付を受領した日(役務の提供を受けた日)から60日以内のできる限り短い期間内に定める必要があると説明しています。この規定が適用されるかどうかは、発注側が従業員を使用しているか、取引の相手がフリーランスに当たるかなどの条件で変わります(公正取引委員会:フリーランス法特設ページ)。同じページでは、フリーランスに対して1か月以上の業務委託をしている場合に、報酬の減額や買いたたきなど7つの行為が禁止されることも示されています。
2026年1月1日には、下請法が改められた取適法が施行されました。公正取引委員会の取適法のページには、施行日と主な改正点がまとめられています。取適法が当てはまるかどうかは、取引の内容の類型と、当事者の資本金または従業員数の基準で決まるため、SNS運用代行のすべての取引が対象になるわけではありません(公正取引委員会:取適法・振興法)。
| 確認したい点 | 関係する法令 | 当てはまる条件 | 確認先 |
|---|---|---|---|
| 取引条件を文書で示してもらう | フリーランス法 | 受託側が従業員を使用しない事業者で、相手が事業者である場合 | 公正取引委員会のフリーランス法特設ページ |
| 報酬の支払期日の上限 | フリーランス法 | 発注側の従業員使用の有無などで適用が変わる | 同上、e-Gov法令検索 |
| 報酬の減額、買いたたきなどの禁止 | フリーランス法 | フリーランスへの1か月以上の業務委託(発注側が従業員を使用しているかなどで適用が変わる) | 同上 |
| 下請法を改めた取引ルール | 取適法 | 取引の類型と、資本金または従業員数の基準に当てはまる場合 | 公正取引委員会の取適法のページ |
| 発注側とのトラブルの相談 | フリーランス法に関する相談窓口 | フリーランスが発注事業者から仕事を受けた場合 | フリーランス・トラブル110番 |
発注事業者とのトラブルの相談先としては、厚生労働省の委託事業であるフリーランス・トラブル110番があります。ただし、契約書の作成そのものや、網羅的なリーガルチェックは窓口の対象に含まれないため、相談したい内容は具体的に整理してから連絡します。フリーランス法の義務と禁止行為の整理は、SNS運用代行者が知るべきフリーランス新法の記事も参照してください。
著作権・アカウント・素材の条項の考え方
権利の条項とは、運用で作った投稿の著作権、アカウントの所有と管理、第三者から借りる素材の扱いを、誰が持ち、いつ移し、契約が終わったあとどうするかを定める条文のことです。
著作権は、著作権法に、その全部または一部を譲渡できると定められています。そのうえで、著作権を譲渡する契約で、翻案などに関する第27条と第28条の権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は譲渡した者に留保されたものと推定されます(著作権法第61条)。また、著作者人格権は、著作者の一身に専属し、譲渡することができません(同法第59条)。条文はe-Gov法令検索の著作権法で確認できます。ひな形の第6条で、第27条と第28条の権利を含めて移転すること、著作者人格権を行使しないことを書いているのは、この二点に対応させるためです。
文化庁には、著作権に関する契約書の案を作成できる著作権契約書作成支援システムがあります。ただし、このシステムは、著作物の創作や実演を職業としない人と、その利用を職業としない人の契約を想定しており、著作権の譲渡などのひな形は提供していないと案内されています(文化庁:著作権契約書作成支援システム)。事業としての運用代行の契約では、この条文を参考にしながら、自分の案件に合わせて書く必要があります。
権利の移転の時期は、報酬の全額が支払われた時とするのが、受託側にとって安全な設計です。未払いの間は、成果物の権利を受託側が持っているため、支払いを促す根拠にもなります。発注側は、投稿を再利用したい範囲が足りているかを、この条文で確認します。
アカウントについては、所有者を発注者と書き、受託者には業務に必要な範囲の権限だけを付与する形にします。パスワードを共有する運用は、誰がいつログインしたかが分からなくなるため、できるだけプラットフォームが用意する権限付与の機能を使います。契約が終わるときの返却の手順は、ひな形の第7条第3項のように、権限の返却とログイン情報の消去まで書きます。
写真、音源、人物の肖像などの素材は、権利を持つ人の許諾が必要になる場合があります。素材を誰が用意し、許諾を誰が確認するかを契約書に書いておくと、投稿の公開後に問題が見つかったときの対応が決まります。確認の観点はSNS運用代行の素材利用ルールの記事で、投稿に使える引用のルールはインスタの著作権の記事で整理しています。
個人情報・ステマ規制・生成AIを扱う条項の考え方
投稿業務で追加する条項とは、基本の条項だけでは足りない、個人情報の取扱い、広告であることの表示、生成AIなど外部ツールの利用という三つの場面に対して、役割分担と禁止事項を決める条文のことです。
個人情報は、メッセージの送信者の名前、問い合わせの内容、顧客リストなどが運用の途中で手元に入る場合に関わります。個人情報の取扱いについては、個人情報保護委員会が、個人情報保護法の概要やガイドラインを公開しています。個人データの取扱いを外部に任せる場合の考え方は、同委員会のガイドライン(通則編)で確認できます(個人情報保護委員会:個人情報保護法)。契約書では、ひな形の第9条のように、目的の範囲で使うこと、契約終了後に返却または消去することを書き、顧客の情報を渡す範囲は発注側が最小限に絞ります。対応の手順はSNS運用代行の個人情報保護法対応の記事に、チェックリストの形でまとめています。
広告の表示については、消費者庁のステルスマーケティング規制のページが、一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難な表示を、景品表示法の規制の対象として説明しています。同ページによると、規制の対象になるのは商品やサービスを供給する事業者(広告主)で、SNSの投稿も対象に含まれます(消費者庁:ステルスマーケティング規制)。運用代行の投稿は、発注者の商品を紹介する場面が多いため、第11条のように、広告にあたる場合は表示を入れること、商品の説明は発注者が提供した資料の範囲で書き、最終の可否を発注者が判断することを決めておきます。表示の書き方はSNS運用代行のステマ規制対応の記事を参照してください。
生成AIは、文章や画像の下書きに使われる機会が増えています。契約書に入れる目的は、使うこと自体を禁じるのではなく、発注者の秘密情報や個人情報を外部のツールに入力しないこと、使うツールの範囲を共有することです。説明と同意の書き方は、SNS運用代行で生成AIを使う時の説明と同意の記事に、契約書と業務範囲への入れ方がまとまっています。
秘密保持の条項は、範囲を絞ることが重要です。公知の情報や、契約の前から持っていた情報を対象から外さないと、一般的な運用の知識まで縛られかねません。また、存続期間を決めておくと、いつまで義務が続くのかが明確になります。秘密保持だけを別の契約にする場合は、SNS運用代行のNDAの結び方の記事が参考になります。
更新・解除・損害賠償の決め方
更新・解除・損害賠償の条項とは、契約をいつまで続けるか、やめたいときにどう通知するか、損害が生じたときにどこまで負担するかを、あらかじめ決めておく条文のことです。
契約期間は、開始日と終了日を日付で書き、更新の方法を決めます。自動更新にする場合は、更新しない旨を伝える期限を明記し、双方がその期限を把握できるようにします。期限を過ぎて申し出ると、同じ条件で次の期間が始まるため、料金の見直しや業務範囲の変更は、期限より前に提案します。期間、更新、中途解約の条項例は、SNS運用代行の契約期間・更新・中途解約の決め方の記事でも扱っています。
解約の予告期間は、双方が準備できる長さに設定します。フリーランス法では、特定の条件を満たす場合に、解除や更新の予告についての義務が定められています。公正取引委員会のページによると、6か月以上の業務委託では、発注側に、育児や介護との両立への配慮と、契約を解除する場合や更新しない場合の30日前までの予告(請求があったときの解除理由の開示を含む)といった義務が加わるとされています。ハラスメント対策の体制整備も、同じページに発注側の義務として挙げられています。ただし、この義務が当てはまるかどうかは、取引の条件によって変わるため、自分の取引が対象かどうかは公正取引委員会のページで確認してください(公正取引委員会:フリーランス法特設ページ)。
損害賠償の条項では、賠償の範囲に上限を設けるのが一般的な形の一つです。ひな形の第13条のように、故意や重大な過失がある場合は上限の対象から外すと、公平性を保ちやすくなります。上限の額は、報酬の何か月分とするかを、案件の規模とリスクに合わせて話し合って決めます。
契約を終えるときの断り方や、受けられない案件の伝え方は、SNS運用代行で案件を断る方法の記事に、言い回しの例があります。
電子契約と印紙税の確認先
印紙税とは、契約書などの課税文書に課される税金で、課税されるかどうか、いくらになるかは、文書の種類と記載された内容によって決まります。
国税庁の印紙税額の一覧表(No.7140)には、第1号文書から第4号文書までの税額が、文書の種類ごとに整理されています。請負に関する契約書は第2号文書の区分にあたり、工事請負契約書や広告契約書などが例として挙げられています。金額に応じた税額は、同じ一覧表で確認できます(国税庁:印紙税額の一覧表(その1))。
SNS運用代行の契約が、請負にあたるのか、準委任にあたるのかは、契約書の題名ではなく中身で判断されます。そのため、業務を継続する形か、成果物の完成を約束する形かを先に整理し、課税文書に当たるかどうかの判断に迷う場合は、税務署や税理士に確認します。
電子契約については、国税庁の福岡国税局が公開する文書回答事例に、注文請書をPDFなどの電磁的記録にして電子メールで送る場合の印紙税の扱いを問う事例があります。この事例では、課税文書の現物を相手に交付したかどうかが論点として示されています(国税庁(福岡国税局):文書回答事例)。電子署名サービスで契約を結ぶ場合も、契約の内容と、紙の文書を別に交付していないかを踏まえて、税務署などに確認すると安心です。
紙で結ぶ場合は、同じ契約書を2通作り、甲乙が1通ずつ保管します。電子契約の場合は、双方が同じデータを保管します。契約書は、トラブルが起きたときの証拠にもなるため、契約が終わったあとも、保管の期間を決めて残しておきます。
契約書を提示するときの伝え方とよくある失敗
契約書の提示とは、相手に契約書案を渡し、内容の説明と質問への回答を経て、合意を文書に残すまでの一連のやり取りのことで、ここでの伝え方次第で、相手の受け取り方も変わります。
契約書を出すことをためらう人は少なくありません。そのときは、契約書を「相手を縛るもの」ではなく、「お互いの認識をそろえるもの」として伝えると、受け入れられやすくなります。たとえば、「作業の範囲と支払いの日付を、お互いに確認できるように文書にしたいと思います」と、目的を一言添えて送る形が、一つの伝え方です。
初めての相手には、契約書の全文を送る前に、業務の範囲、報酬、期間、権利の四点を箇条書きで伝え、合意を得てから条文に整える進め方もあります。専門用語が多い契約書は、読む側の負担が大きいため、やさしい言葉で要点をまとめたメモを添えると、質問が減ります。
ひな形を使うときによくある失敗は、次の三つです。一つ目は、前の案件の金額や日付、アカウント名が残ったまま送ってしまうことです。送る前に、固有名詞、金額、日付、アカウント名を、ひな形の空欄と照らして一つずつ確認します。二つ目は、自分に必要のない条を残して、相手を不安にさせることです。再委託や外部ツールを使わない案件は、その条を外すか、使わない旨を書きます。三つ目は、条文の意味が分からないまま署名することです。分からない条は、相手に質問するか、専門家に確認してから署名します。
運用の連絡手段、返信の目安、報告の頻度は、契約書と同時に決めておくと運用が安定します。決め方はSNS運用代行の連絡ルールの決め方の記事に、案内文の例があります。報告の中身は月次レポートの書き方の記事を参照してください。
運用代行を事業として展開する場合の考え方は、法人として運用代行を手がける株式会社S.Lineの会社情報や、運用の学習をまとめたSkill.Onのロードマップも参照できます。
よくある質問(FAQ)
- Q1. 金額が小さい案件でも、契約書は必要ですか。
- 金額の大小にかかわらず、業務の範囲と報酬、支払日だけでも文書に残しておくと、後の行き違いを防げます。簡易な形でよいので、メールで条件を整理し、相手の返信を保存する方法もあります。
- Q2. この記事のひな形を、そのまま使ってもよいですか。
- 空欄を案件に合わせて埋め、不要な条を調整すれば、出発点として使えます。ただし、案件の規模、独占的な業務の有無、扱う個人情報の量によって必要な条項が変わるため、金額が大きい契約や判断に迷う点は、弁護士や行政書士に確認してください。
- Q3. 相手が契約書を作りたがらないときは、どうすればよいですか。
- 契約書の代わりに、業務の範囲、報酬、支払日、期間をメールで整理し、相手の了承の返信をもらう方法があります。フリーランス法が当てはまる取引では、発注側に取引条件を文書や電磁的方法で示す必要があるため、公正取引委員会のページで自分の取引が対象かを確認し、必要に応じて相談窓口を利用してください。
- Q4. 契約書は、紙と電子のどちらで結ぶのがよいですか。
- どちらも契約として結べます。遠方の相手とのやり取りが多い場合は、電子契約のほうが手続きが早く進みます。印紙税の扱いは、契約の内容と交付の形で変わるため、迷うときは税務署や税理士に確認します。
- Q5. フォロワー数の増加を約束する契約にしてもよいですか。
- フォロワー数などの増加を契約の条件にする書き方は、おすすめしません。フォロワー数などは、プラットフォームの仕様や外部の状況にも左右されるためです。固定の報酬を基本にして、成果に連動した報酬を入れる場合は、目標を達成したときの加算として書くと、未達のときの負担を抑えられます。
- Q6. 契約の途中で、業務の範囲が増えたときはどうしますか。
- 第1条第2項のように、範囲外の業務は、協議と文書での合意を経て、別途の報酬で行うと決めておきます。増えた作業が続く見込みなら、次の更新のときに、範囲と報酬をまとめて見直します。
- Q7. 個人で受ける場合も、秘密保持や個人情報の条項は必要ですか。
- 運用の途中で、発注者の売上や顧客の情報、メッセージの送信者の情報を知る場面があるため、個人で受ける場合も、基本の形は同じです。扱う情報の量に合わせて、範囲と存続期間を調整してください。
まとめ|契約書は条項の記載例と確認表で整える
SNS運用代行の契約書は、業務の範囲、報酬と支払日、成果物とアカウントの権利、秘密保持と個人情報、再委託と生成AI、解除の手順を条文にして、受託側と発注側の認識をそろえるための文書です。
- 運用の継続は準委任に近く、成果物の納品は請負に近い(民法)。中身に合わせて書き分ける
- 結果の約束は書かず、成果に連動した報酬は達成時の加算として設計する
- 著作権は報酬の全額支払いで移転し、第27条と第28条の権利と著作者人格権の扱いを明記する
- 支払期日と取引条件の明示は、フリーランス法や取適法が当てはまるかを公式ページで確認する
- 個人情報、広告表示、生成AIの条項で、役割分担と禁止事項を決める
- 金額が大きい契約や判断に迷う点は、専門家に確認する
まずは、本記事のひな形の空欄を、自分の案件の条件で埋めるところから始めてください。条文を読み返す段階では、条項ごとの確認表を横に置き、自分の立場から見て不利な点がないかを確認すると、署名前に気づける点が増えます。
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