SNS運用代行は、投稿の企画から制作、運用、分析までを外部に任せる仕事です。任せる側と受ける側の期待がずれたまま始まりやすく、後から「そこまでは頼んでいない」「そこまでは契約に入っていない」と食い違いが表に出ます。
この記事では、SNS運用代行で起きやすい契約トラブルを「よくある型」として整理し、契約前に確認すること、契約書に入れておきたい内容、問題が起きたときの動き方、相談先までをまとめます。ここで挙げる型は特定の企業や個人の出来事ではなく、一般化した仮の例です。
法律に関わる部分は公式ページに沿って書き、断定できない点は弁護士や公的な相談窓口で確認する前提にしています。個別の契約書が有効かどうかの判断は、この記事ではできません。
SNS運用代行の契約トラブルとは?起きやすい場面の全体像
SNS運用代行の契約トラブルとは、業務の範囲、成果の捉え方、費用、アカウントやデータの扱いなどについて、依頼側と受託側の認識が食い違い、契約上の合意だけでは解決しにくくなる状態を指します。
トラブルの多くは、悪意よりも「確認していなかった」ことから始まります。口頭で話した内容がそのまま通ると思っていた、見積もりに含まれる作業の範囲を別々に理解していた、という程度のずれが、運用が始まってから大きくなります。
契約の前後で起きやすい場面
場面は大きく、契約前、運用中、終了時の三つに分けると整理しやすくなります。契約前は、提案内容と見積もりの読み違いが中心です。運用中は、追加の依頼や修正の回数、報告の頻度で揉めます。終了時は、アカウントの権限、制作物の権利、最後の請求が論点になります。
「成果」の言葉が食い違うと何が起きるか
フォロワー数、投稿への反応、サイトへの流入、問い合わせなど、SNSの成果には複数の見方があります。契約書に「成果を出す」とだけ書くと、どの指標を、いつまでに、どの水準で目指すのかが読む人ごとに別になります。運用代行は、広告費や投稿内容、商品そのものの魅力にも左右されるため、受託側が成果を約束する書き方は慎重に扱うべきです。
契約前に確認したい前提:誰と誰の契約かを整理する
契約前の前提確認とは、依頼側と受託側がそれぞれ個人事業主か会社か、従業員を使っているかを明らかにし、どの法令や取引ルールが関係するかを見極める作業です。
SNS運用代行は、受託側が会社の場合も、個人で受ける場合もあります。ここを整理しないと、読むべき法令やルールが分かりません。
個人で受ける場合に関わるフリーランス法
個人が業務委託を受ける取引では、フリーランス・事業者間取引適正化等法(フリーランス法)が関わる場合があります。ただし、この法律でいう「フリーランス」には、従業員を使用している人や、消費者を相手に取引をしている人は当たらないと、公正取引委員会のフリーランス法特設サイトで説明されています。同じ「個人で受けている」状態でも、人を雇っているかどうかで扱いが変わる点に注意が必要です。
公正取引委員会のフリーランス法特設サイトでは、フリーランスに業務委託をした場合、直ちに書面または電磁的方法(メール、SNSのメッセージ等)で取引条件を明示しなければならず、口頭で伝えることは認められないと案内されています。明示すべき事項には、業務の内容、納品や作業の期日、報酬の額と支払期日などが並んでいます。この取引条件の明示は、フリーランスに業務委託をするすべての発注事業者の義務です。一方、報酬の支払期日を発注した物品等を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内で定める義務は、従業員を使用している発注事業者の義務として、同サイトの「法律の内容」で発注事業者の条件ごとに分けて案内されています。自分の取引に当たるかは、同サイトで立場ごとに確かめてください。
フリーランス法が禁じている行為の例
同じ公正取引委員会のフリーランス法特設サイトでは、従業員を使用している発注事業者がフリーランスに対して1か月以上の業務委託をしている場合に禁止される7つの行為として、受領拒否、報酬の減額、返品、買いたたき、購入・利用強制、不当な経済上の利益の提供要請、不当な給付内容の変更・やり直しが挙げられています。SNS運用代行に置き換えると、フリーランスに責任がないのに納品後に報酬を減らす、費用を負担せずに受領後の作り直しをさせる、といった場面が関わりえます。どの行為が該当するかは取引の事情で変わるため、自分の取引に当てはまるか分からないときは窓口で確認してください。
会社同士の取引で関わりうるルール
受託側が会社の場合や、受託側が従業員を使用している場合は、フリーランス法の対象とならないことがあります。会社同士の委託取引では、公正取引委員会の取適法のページで案内されている中小受託取引適正化法(通称:取適法。旧下請法の改正法で、施行期日は令和8年1月1日)が関わる可能性があります。ただし、資本金などの規模や取引の内容で対象が決まるため、自分の取引が対象かどうかは公式情報や専門家で確認してください。この記事では適用範囲を断定しません。
どの立場でも共通する確認事項
- 契約の相手は個人か会社か、契約書に書かれた名称は正しいか
- 業務を任せる範囲と、受託側が引き受けない範囲が分けて書かれているか
- 途中で内容を変える場合の手続きと費用の決め方が書かれているか
- 終了するときの申し出の方法と、その後の権利関係が書かれているか
よくある契約トラブルの型(仮の例)と防ぎ方
契約トラブルの型とは、SNS運用代行で繰り返し起きる食い違いのパターンを、特定の事例ではなく一般化して整理したものです。
以下は、依頼側にも受託側にも起こりうる型を、仮の例として示したものです。実在の事例ではありません。
型1:業務範囲が曖昧で作業が膨らむ
「運用をお願いします」とだけ決めて始め、後から画像の制作、コメント返信、キャンペーン対応が加わっていく型です。受託側は追加作業と考え、依頼側は最初から含まれていたと考えるため、費用の話で行き違います。防ぐには、投稿の種類、制作物の範囲、コメントやメッセージへの対応の有無を、できる作業とできない作業に分けて書き出します。見積もりの段階で前提条件を書いておく方法は、見積書の記載項目と前提条件をまとめた記事で扱っています。
仮の例として、修正の依頼が繰り返され、受託側が当初の想定より大きな負担を負う場面があります。修正の回数や受け付ける期間を決めていなければ、どこまでを料金の内に含めるのかが決まりません。上限を設ける場合は、案件の規模に合わせて双方が納得できる形にしてください。
型2:成果の期待と報告内容がずれる
依頼側は問い合わせの増加を期待し、受託側は投稿への反応の改善を目標にしていた、という型です。報告書の内容も、依頼側が見たい項目と受託側が出す項目がかみ合いません。防ぐには、最初に「何を成果として見るか」を一つか二つに絞って合意し、報告にどの指標を載せるかも決めます。成果の見込みを数字で約束する書き方は避け、確認する指標と見直しの場を決める形にします。開始時点の状態を記録しておく方法は、運用開始前の数字の記録シートと手順をまとめた記事が参考になります。
仮の例として、月の終わりに報告書が届いたとき、依頼側が見たかった問い合わせの件数が載っていなかった場面を考えます。受託側は合意した指標をすべて載せたつもりでも、依頼側には期待外れに見えます。報告書の見本を契約前に見せておくと、この種のずれに早く気づけます。
型3:アカウントの権限とデータの帰属が不明
運用のために受託側が管理者権限を持ったまま、契約が終わって連絡が途絶える型です。広告アカウントや分析のデータ、制作物の元データがどちらのものかも分かりません。防ぐには、アカウントの所有者は依頼側であることを前提に、権限の付与範囲と、終了時に返す手順を決めます。各SNSの利用規約で認められる権限の渡し方は、サービスごとの公式ヘルプで確認してください。終了時の返し方は、契約終了時のアカウント権限と資料の返し方をまとめた記事で詳しく扱っています。
仮の例として、担当者が変わって連絡がつかなくなり、管理者権限が受託側に残ったままになる場面があります。依頼側は投稿も停止もできず、広告の設定も確認できません。受託側に渡す権限は業務に必要な範囲にとどめ、依頼側の管理者を外さない運用が、基本的な備えです。
型4:支払いの条件と解約の扱いで揉める
請求のタイミング、修正が続いた場合の追加費用、途中でやめる場合の精算が決まっていない型です。防ぐには、請求書を出す時期、支払期日、途中解約の申し出方法と精算の考え方を書面に残します。個人が受託する場合の報酬の支払期日は、先に触れたフリーランス法の案内も確認してください。契約期間・更新・途中解約の決め方は、契約期間と更新、中途解約の条項の考え方をまとめた記事にあります。
仮の例として、月の途中で依頼側が解約を申し出たとき、その月にすでに進めた企画や制作の分をどう精算するかが決まっていない場面があります。月額で決めていた場合、日割りにするのか、着手済みの作業分だけを請求するのかで、双方の考えが分かれます。精算の考え方を契約時に一文で書いておくと、申し出の段階で揉めにくくなります。料金を見直すときの伝え方は、既存の取引先へ料金改定を伝える方法をまとめた記事も参考にしてください。
型5:画像・文章・音源の権利が整理されていない
制作した画像や動画を、契約終了後に依頼側が使い続けてよいのかが決まっていない型です。素材サイトの画像や音楽を使った場合は、その利用規約の範囲も関わります。防ぐには、制作物の権利を誰が持つか、素材の出典と利用条件を記録するか、契約書に書きます。著作権の扱いは個別の判断が必要なため、重要な案件では専門家に確認してください。
仮の例として、受託側が過去の案件で作った画像を流用した場合、別の依頼側の素材が混ざっていないかが問題になります。他の案件の秘密情報や権利が含まれていないか、納品前に確認する習慣が必要です。生成AIで画像や文章を作る場合も、その使い方を依頼側に説明し、同意を得ておくと後から食い違いにくくなります。説明と同意の書き方は、生成AIを使うときの説明と同意、契約書への書き方をまとめた記事で扱っています。
型6:投稿内容の責任と炎上時の対応
投稿の最終確認を誰がするのか、不適切な表現があった場合に誰が謝罪や削除の判断をするのかが決まっていない型です。防ぐには、投稿前の承認の流れと、問題が起きたときの連絡先と判断者を決めます。広告であることの表示や、効果をうたう表現にも注意が必要で、業種ごとの規制がある場合は依頼側の責任で確認する取り決めにしておきます。
仮の例として、休日に投稿への批判的なコメントが集まったとき、誰がどこまで対応するのかが決まっていない場面があります。夜間や休日の対応を受託の範囲に含めるのか、含めないのかも、契約前に決めておく項目です。問題が起きた直後の動き方は、炎上やクレームの初期対応をまとめた記事も確認してください。
| 型 | 起きやすい原因 | 契約前に決めること |
|---|---|---|
| 業務範囲が曖昧 | 作業の線引きが書かれていない | 含む作業と含まない作業、追加の扱い |
| 成果の認識のずれ | 成果の定義と報告項目が未決 | 見る指標、報告の内容と頻度 |
| 権限・データの帰属 | 管理者権限と返却の手順が未決 | 所有者、権限の範囲、終了時の返却 |
| 支払い・解約 | 請求時期と精算の考え方が未決 | 請求の時期、支払期日、解約の申し出 |
| 権利の整理 | 制作物と素材の権利が未整理 | 権利の帰属、素材の出典と利用条件 |
| 投稿の責任 | 承認と緊急時の判断者が未決 | 承認の流れ、緊急連絡先、削除の判断 |
範囲を書き出した例(仮の例)
次は、あくまで仮の例として、範囲を文章にするときの書き方を示したものです。実際の案件では、内容に合わせて作り直してください。
- 含む作業:投稿の企画案づくり、投稿文の作成、画像の制作、投稿の予約、月ごとの報告書の作成
- 含まない作業:商品の撮影、広告費の支払い、取材、問い合わせへの個別対応
- 追加の依頼:範囲外の作業は、内容と費用を文章で確認してから着手する
- 依頼側の役割:商品情報の提供、投稿内容の承認、承認の連絡
このように「含む」と「含まない」を並べておくだけで、追加費用の話が出たときに、どちらの区分かを確認しやすくなります。依頼側の役割も書いておくと、承認が遅れて作業が止まった場合の責任の置き場も整理できます。
範囲の食い違いが起きた場面を、記録で整理する流れ(仮の例)
仮の例として、投稿画像の追加制作をめぐって食い違いが起きたとします。受託側は範囲外の追加作業だと考え、依頼側は最初の依頼に含まれていたと考えています。このときは、まず契約書の業務内容の欄を開き、画像の制作がどう書かれているかを確認します。次に、見積書の内訳と、依頼時のメッセージを並べます。どこにも書かれていないなら、今回は双方の確認不足として、今後の扱いを決め直します。費用の負担は、追加作業の量と、これまでの運用の実態を踏まえて話し合います。
この流れのポイントは、誰が悪いかを先に決めないことです。記録を並べると、多くの場合は書かれていなかった点が見つかり、その点を契約書に足すことで再発を防げます。
契約書・発注書に入れておきたい項目の考え方
契約書に入れる項目とは、トラブルの型に対応して、範囲、費用、権利、終了の取り決めを文章にしたものです。内容は案件ごとに異なり、最終的な文面は専門家に確認するのが安全です。
契約書の雛形を当てはめるだけでは、SNS運用代行の実態に合わないことがあります。次の表は、項目を考えるときの見出しとして使えるものです。文面そのものではなく、確認の観点です。
| 項目 | 書いておく内容 | 確認の観点 |
|---|---|---|
| 業務内容 | 投稿の種類、制作物、コメントへの対応の範囲 | 口頭で話した内容が漏れていないか |
| 対象外の作業 | 広告運用、撮影、取材などの扱い | 追加のときの依頼方法と費用の決め方 |
| 報告 | 報告する指標、方法、見直しの場 | 依頼側が判断に使える内容か |
| 費用と支払い | 金額の内訳、請求の時期、支払期日 | 消費税や実費の扱いが書かれているか |
| アカウント・データ | 所有者、権限の範囲、終了時の返却 | パスワードの共有を避ける方法があるか |
| 権利 | 制作物の権利、素材の利用条件 | 契約終了後の使用範囲が書かれているか |
| 秘密保持 | 取引で知った情報の扱い | 終了後の扱いも書かれているか |
| 終了・解約 | 申し出の方法、精算の考え方 | 途中で終える場合の手続きが書かれているか |
表の項目に加えて、受託側が作業の一部をさらに外部へ任せる再委託をするかどうかも、契約時に決めておきたい点です。許諾の取り方や、外部に渡してよい情報の線引きは、再委託の進め方と条項の例をまとめた記事で扱っています。
提案書の段階で範囲をそろえる
契約書の前段階の提案書で、範囲と前提をそろえておくと、後の食い違いを減らせます。書き方の例は、SNS運用代行の提案書テンプレートにまとめています。
取引条件を残す方法
個人が受託する取引では、条件を書面や電磁的方法で示すことが求められる場面があります。契約書がなくても、条件をメールや業務チャットに文章で残しておくと、後から確認できます。重要な変更は口頭で済ませず、同じ連絡手段で文章にします。どの手段で連絡し、何を報告するかの決め方は、連絡手段や報告の頻度の決め方をまとめた記事にあります。
SNS運用代行の契約トラブル事例と対策の具体的な手順【ステップ1〜5】

契約トラブルを防ぐ手順とは、契約前から運用開始後まで、確認と記録を段階的に進めて、食い違いを早い時期に見つけて直す一連の流れです。
ここでは、契約前から運用が始まった後までを、段階ごとに並べます。番号は順序を示すもので、期間や回数を示すものではありません。
ステップ1:依頼の要件と取引の前提を文章にする
最初に、何のためにSNS運用を任せるのか、どのアカウントで何を発信するのかといった依頼の要件を文章にします。あわせて、相手が個人か会社か、従業員を使用しているかを確認し、自分の立場に関わるルールを調べます。個人で受託する場合は前の章で紹介したフリーランス法の特設サイトで、会社同士の取引なら取適法の対象かどうかも見ておきます。
ステップ2:業務の範囲を決めて固定する
要件をもとに、含む作業と含まない作業を分けて書き出し、双方で読み合わせて確定させます。確定した範囲は契約書や発注書に載せ、運用が始まってからは、範囲外の依頼を追加の作業として扱う基準にします。
ステップ3:成果物と確認の方法を決める
納める成果物(投稿文、画像、報告書など)と、依頼側がそれを確認・承認する流れを決めます。報告書に載せる指標、制作物の権利、アカウントの権限と終了時の返却も、このときに決めておきます。決められない項目は、決めるための期限と担当者を書いておきます。
ステップ4:連絡のルールを決める
業務の連絡に使う手段、依頼側と受託側それぞれの窓口、報告の場の持ち方を決めます。通話で話した内容も後から文章で確認する、という決まりにしておくと、合意の記録が一か所に残ります。
ステップ5:変更と解約の条件を決めて記録する
運用中に範囲や費用を変えるときの手続きと、途中で終える場合の申し出の方法と精算の考え方を契約書に書きます。実際に変更があったときは内容を文章で残し、双方が確認します。金額が大きい案件や権利に関わる条項があるときは、弁護士などの専門家に文面を確認してもらってください。個人で受託する場合に使える公的な相談窓口は、後の「トラブルが起きたときの動き方と相談先」で紹介します。
契約前のチェックリスト:依頼側・受託側の共通項目
契約前のチェックリストとは、署名や合意の前に、相手の確認、範囲、費用、権利、終了の取り決めがそろっているかを順に見直すための一覧です。
署名や合意の前に、次の項目を一つずつ確認します。すべてが埋まらなくても構いませんが、埋まっていない項目は、後で決める日と担当者を書いておきます。
- 相手の名称、住所、連絡先が契約書と一致している
- 業務の範囲と対象外が文章で分かれている
- 成果として見る指標と、報告の内容が合意されている
- 金額の内訳、請求の時期、支払期日が書かれている
- 追加依頼と修正の扱いが決まっている
- アカウントの所有者、権限の範囲、終了時の返却が決まっている
- 制作物の権利と、素材の利用条件が整理されている
- 投稿の承認の流れと、緊急時の連絡先が決まっている
- 解約の申し出の方法と、精算の考え方が書かれている
- 契約書の控えを双方が持っている
このチェックリストは、法的な有効性を保証するものではありません。契約の金額が大きい場合や、権利や責任に関わる条項があるときは、専門家に文面を確認してもらってください。
トラブルが起きたときの動き方と相談先
トラブル時の対応とは、感情的なやり取りを避けて事実と記録を整理し、必要に応じて公的な窓口や専門家へ相談するまでの動き方です。
食い違いが見つかったら、まず事実と記録を整理します。やり取りのメール、契約書、見積書、報告書、請求書を集め、どの時点で何が決まっていたかを時系列で並べます。
まず当事者同士で整理する
相手を責める前に、契約書や記録に何と書いてあったかを一緒に確認します。記録が曖昧なら、今回の食い違いを防ぐために何を決め直すかを話し合います。文章で残す連絡手段を使い、通話で話した内容も後でメールで確認します。
公的な窓口と専門家に相談する
当事者同士で解決しにくいときは、相談先を使います。フリーランス・個人事業主の方は、フリーランス・トラブル110番を使えます。厚生労働省の委託事業として第二東京弁護士会が運営しており、弁護士に無料で相談でき、電話やメールでの相談、匿名での相談もできると案内されています。発注事業者の違反が疑われるときは、公正取引委員会の違反被疑事実についての申出窓口が設けられています。契約書の有効性や損害賠償の判断が必要なときは、弁護士に直接相談してください。
相談する前に準備しておくもの
- 契約書、発注書、見積書、請求書
- やり取りのメールやメッセージの履歴
- 業務の報告書や納品物の一覧
- いつ何が起きたかを並べた時系列のメモ
提案・見積もりを受け取ったときに尋ねたい質問
見積もり時の質問とは、提案書や見積書の内容を契約に結びつける前に、範囲、費用、権利、終了の扱いについて相手に確認する問いかけのことです。
見積もりは、金額だけでなく、前提と範囲を読む資料です。分からない箇所はその場で質問し、回答を文章で残します。
依頼側が尋ねたい質問
- この金額に含まれる作業と、含まれない作業はどれか
- 追加の依頼や修正が出たときは、どのように費用を決めるのか
- アカウントの管理者権限は誰が持ち、契約が終わったときにどう戻るのか
- 制作した画像や文章は、契約が終わった後も使ってよいのか
- 成果の見込みを示すときの根拠と条件は何か
受託側が確認したい質問
- 依頼側の承認は誰が行い、連絡の窓口は誰か
- 商品やサービスの情報は、いつ誰が提供するのか
- 広告の表示や効果の表現について、依頼側で確認する範囲はどこか
- 支払いの時期は、納品や報告のどの時点を基準にするのか
- 契約を終えるときの申し出の方法と、精算の考え方は何か
どちらの側も、回答があいまいなままのときは、その点を契約書に書くかどうかを検討します。回答が得られない相手とは、契約を急がない判断も必要です。
依頼側と受託側、立場別に気をつけたいこと
立場別の注意点とは、依頼する側と受ける側で、同じ契約でも見落としやすい点が異なることを整理したものです。
依頼する側が気をつけたいこと
依頼側は、見積もりの安さだけで選ぶと、範囲外の作業が追加になりやすくなります。何を任せ、何を自社で行うのかを決めます。アカウントの所有者が自社であること、権限を渡す範囲、終了時の返却を確認します。成果を約束する営業トークには、根拠と条件を尋ねます。
受託する側が気をつけたいこと
受託側は、断れる範囲を最初に示します。追加の依頼が来たときの手続きと費用を決めておけば、無料で膨らむ作業を防げます。個人で受ける場合は、相手が取引条件を示してくれない、支払期日が具体的な日で決まっていないといった点を、前の章で紹介したフリーランス法の特設サイトで確認し、必要なら窓口に相談します。
両方に共通する心がけ
お互いにとって読めば分かる文章を残すことが、最も基本的な対策です。分からない言葉は、その場で定義を確認します。
報告書に載せる項目の決め方
報告書は、成果を示すだけでなく、契約範囲に収まっているかを確認する資料にもなります。実施した作業の一覧、確認した指標、気づいた課題、次に行う作業の案を、決まった形式で載せます。指標は最初に合意したものに絞り、見せたい数字だけを選ぶ形にならないようにします。数字が悪かったときも、原因の仮説と次の対応を並べて報告すれば、責任の押し付け合いになりにくくなります。
契約トラブルを防ぐ運用の習慣
防ぐ運用の習慣とは、契約を結んだ後も、報告、変更の管理、記録の保存を続けて、食い違いを小さいうちに見つけることです。
契約書を作って終わりにせず、運用中に使える仕組みにします。
報告の場で契約範囲を見直す
定期の報告の場で、今の作業が契約の範囲に収まっているかを確認します。範囲を超えていれば、その場で追加として扱うか、見送るかを決めます。
変更の記録を一か所にまとめる
範囲、費用、担当の変更は、同じ場所に時系列で残します。共有のドキュメントなどにまとめておけば、後から経緯を確認できます。
終了時の手続きを早めに決める
終了を決めたら、アカウントの権限の返却、データの引き渡し、最後の請求を、順番に整理します。終了後の連絡先も確認します。
連絡手段と窓口を決めておく
連絡が複数の手段に散らばると、決まった内容が分からなくなります。業務の連絡は一つの手段に統一し、担当者も依頼側と受託側で一人ずつ決めます。担当者が変わるときは、引き継ぎの内容を文章で残します。
契約と運用代行の知識を学びたい方へ
学習の案内とは、SNS運用の知識を体系的に学ぶ機会を紹介するもので、個別の法律相談の代わりにはなりません。
SNS運用代行の仕事を始めたい方は、運用の知識に加えて、提案書、見積もり、契約の考え方もあわせて学ぶと、トラブルを避けやすくなります。学習の内容や進め方は、公式LINEの案内で確認できます。法律に関わる個別の判断は、専門家や公的な窓口に確認してください。
まとめ:契約トラブルを防ぐには、範囲と記録を文章にする
SNS運用代行の契約トラブルは、業務範囲、成果の捉え方、アカウントと権利、支払いと解約の取り決めが曖昧なときに起きやすくなります。契約前に相手と取引の形を確認し、範囲と成果の見方を文章にし、変更を記録することが、基本的な対策です。
個人で受託する場合はフリーランス法が関わることがあるため、前の章で紹介した特設サイトで対象と義務を確認し、困ったときはフリーランス・トラブル110番に相談できます。会社同士の取引では、取適法の対象かどうかも公式情報で確かめてください。
SNS運用代行の契約トラブルに関するよくある質問(FAQ)
- Q. 契約書がなく、口頭やメッセージだけで始めてしまいました。どうすればよいですか?
- 今からでも、決まっている内容をメールなどの文章にして相手に確認してもらうと、記録が残ります。フリーランス法の対象となる取引では、発注する側が取引条件を書面や電磁的方法で明示する義務を負います。契約書がある場合の扱いも含め、公正取引委員会のフリーランス法特設サイトのよくある質問で確認してください。
- Q. 成果が出なかった場合、費用を返してもらえますか?
- 契約に成果の定義や返金の条件が書かれているかで変わります。書かれていない場合は、個別の判断が必要です。弁護士や、個人で受託している場合はフリーランス・トラブル110番などの窓口に相談してください。
- Q. 運用を終えるとき、アカウントやデータはどうなりますか?
- アカウントの所有者は依頼側であることが前提ですが、取り決めがないと返却の手順で揉めます。契約書に、権限の返却とデータの引き渡しを書いておきます。
- Q. 制作した画像や文章の権利は誰のものですか?
- 契約で決めていなければ、判断が難しくなります。制作物の権利と、契約終了後の使用範囲を書面に残してください。重要な案件は専門家に確認します。
- Q. 追加の作業を頼まれたとき、断ってもよいですか?
- 契約の範囲外であれば、追加の作業として費用と範囲を決めてから受けるのが基本です。範囲外の依頼への対応方法を、契約書に書いておくと断りやすくなります。
- Q. 契約の内容を後から変えたいときはどうすればよいですか?
- 変更の内容と、変更後の範囲と費用を文章にして、双方が確認します。口頭だけで済ませず、契約書の追記や覚書、メールでの合意など、記録が残る方法にします。契約書に変更の手続きが書かれていれば、それに沿って進めてください。
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